日本における無線式列車制御システムは1985年頃から1995年に鉄道総合技術研究所にて開発がされていた。 CARAT (Computer And Radio Aided Train control system) と名付けられ、車上・地上設備間で無線による列車の位置情報や停止目標位置転送を行い、各列車で速度パターンを計算するというシステムで。1996年からJR東日本でATACSの開発がスタートすると鉄道総研の研究メンバーがJR東日本に出向し、開発に携わっています。
2021年6月時点の無線式列車制御システムを営業線で採用しているのは、JR東日本のATACSのみで、2011年に仙石線あおば通~東塩釜間に、2017年に埼京線池袋~大宮間にも導入されています。
また、小海線には2020年10月12日に地方交通線向け列車制御用無線通信システム(ATS-P(R))が導入されており、地上子から受け取っていたATS信号情報が無線での送受信に代わりました。
路線名 | 種類 | 導入時期 |
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JR仙石線 | ATACS | 2011年10月10日 |
JR埼京線 | ATACS | 2017年11月4日 |
JR小海線 | ATS-P(R) | 2020年10月12日 |
導入予定では、今後首都圏でのすべてのJR線区でATACSへの置き換えが予定されているほか、東京メトロ丸ノ内線・半蔵門線と都営地下鉄大江戸線、西武鉄道ではCBTCを導入が予定されており、日比谷線13000系でCBTC車上アンテナの取り付けが始まっています。大江戸線は2024年度末2027年度、西武鉄道は2030年代に導入予定です。
※2021年12月7日に、山手線・京浜東北線(大宮~東神奈川)でATACSの導入が発表されました。
※2022年7月頃から、丸ノ内線の地上子・地上局の設置が確認されました。
また、東急電鉄は2023年3月23日に東京メトロと連名で、2028年度に田園都市線は東京メトロ半蔵門線と同一の無線式列車制御システムに更新、2031年度に踏切遮断時間の改善を目的に大井町線にも導入すると発表しました。このプレス発表の中に「東急電鉄と東京メトロは、その他の相互直通運転路線においても信号保安システムの統一を目指す」と記載されていることから、今後他社にも統一した信号システムの導入を促していくものと思われます。
一方、JR西日本はATACSをベースにした無線式車上主体列車制御システムの走行試験が嵯峨野線亀岡~園部駅間で2015年2~3月に行われ、2023年春より和歌山線橋本~和歌山駅間に無線式ATCとして導入すると発表しましたが、2022年2月18日に「無線による保安システム導入計画の見直しについて」と題されたプレスリリースがあり、「近年の無線通信技術の目覚ましい進歩とこれまでの開発成果を踏まえ、現行の計画を見直し、新しい技術を取り入れた無線による保安システムの導入を将来的に目指すこととしました。」と発表されました。既に地上設備・車上設備の準備工事が進んでいる中で計画を見直した初事例となりました。
路線名 | 種類 | 導入時期 |
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JR首都圏各線 | ATACS | 不明 |
東京メトロ丸ノ内線 | CBTC | |
東京メトロ日比谷線 | CBTC | |
都営大江戸線 | CBTC | |
東京メトロ半蔵門線 | CBTC | |
東急田園都市線 | CBTC | 2028年度 |
JR山手線 | ATACS | 2028~2031年頃 |
JR京浜東北線 | ATACS | 2028~2031年頃 |
西武鉄道 | CBTC | 2030年代 |
東急大井町線 | CBTC | 2031年度 |
JR和歌山線 | 無線式ATC |
東京メトロ丸ノ内線で2022年度末に導入予定のCBTCを三菱電機が受注し、その評価検証・試験のために方南町支線にCBTC設備が設置されました。また、3両編成の02系にもCBTC装置が搭載され、試験が行われた模様です。
なお、02系は全て2000系への置き換えが予定されており、試験以外での02系への搭載はない模様です。
東急大井町線自由が丘~緑が丘間で、2020年初めから春頃までCBTCの試験が行われていました。検測車7500系「Toq-i」に車上装置が搭載され試験が行われたようです。車上装置は2020年夏には外されていますが、地上設備は撤去されずに残っています。
東急のCBTC導入については、東急電鉄の渡邊社長が東洋経済の記事の中で、田園都市線へのCBTC導入を匂わせるようなコメントを出しています。
→上述の通り、2023年3月23日に東京メトロと連名で、2028年度に田園都市線は東京メトロ半蔵門線と同一の無線式列車制御システムに更新、2031年度に踏切遮断時間の改善を目的に大井町線にも導入すると発表しました。
また、地方鉄道向け無線式列車制御システムの開発として国土交通省より委託調査を行っている日本信号が、伊豆箱根鉄道大雄山線に実証試験を行っています。
ATACSの導入を進めているJR東日本ですが、地方ローカル線向けにはATS-P(R)のほかにGNSS及び携帯無線通信網を活用した新しい列車制御システムの開発も進められています。これは自前で無線網を作るのではなく、docomoなどの公衆無線網を活用して列車制御をしようという試みである。また列車の位置検出にはGNSSが活用するとのことで、ATACSのような位置補正地上子も不要になるものと思われます。
2020年9月のプレスによると、2020年9月~2021年1月に八高線高崎駅~高麗川駅間で踏切制御の試験が、その後は速度制御の試験が行われ、2024年に導入が予定されています。
国土交通省において、2019年から2021年にかけて都市鉄道向け無線式列車制御システム(CBTC)仕様共通化検討会が設置された。
"首都圏等では相互直通運転が進んでいることから、各鉄道事業者が路線毎に様々なシステムを開発・導入すると、複数のシステムに対応させる必要があり、コスト増等の要因になります。
このため、鉄道局では「都市鉄道向け無線式列車制御システム(CBTC)仕様共通化検討会」を設け、鉄道分野における生産性革命に資するCBTCの仕様共通化等に関する検討を行い、より一層の導入促進を図ります。"としている。
検討会には、JR東日本、東京メトロ、東急など首都圏の大手各社の他、JR西日本、近鉄、阪神も参加し、2021年3月に「都市鉄道向け無線式列車制御システム(CBTC)仕様共通化検討会とりまとめ」「インターフェース仕様共通化ガイドライン」「無線回線設計ガイドライン」が発表されている。
2022年12月15日、JR東日本と東京メトロが「東京メトロとJR東日本は、 無線式列車制御システムの導入推進に向け、協力して検討を進めます」と題された共同プレスリリースを発表した。内容は、「将来に向けた無線式列車制御システムの標準仕様の検討を行うなど、導入のスピードアップや開発コストの軽減、スマートな事業運営を目指」すという内容である。
上述の通り、JR東日本は仙石線・埼京線・山手線・京浜東北線にATACSを、東京メトロは丸ノ内線・日比谷線等にCBTCを導入(予定)しており、コロナ禍で鉄道各社の懐事情などからコストカットが求められているものと思われる。また、各社が独自仕様のシステムを開発・導入すると、直通運転などで乗り入れ先システムに対応させるためのコスト増等が発生することから、今回のように会社間を越えた開発を進めようとしているものと思われる。
また、2023年2月2日には、JR東日本と近鉄が「近畿日本鉄道とJR東日本は、サステナブルな鉄道経営を目指し、鉄道技術分野での協力を強化します!」と題された共同プレスリリースを発表し、こちらも両社が無線式列車制御システムなどの新しい技術を導入する際の仕様共通化、開発コストの低減や設備導入のスピードアップに取り組み内容となっています。